地域色豊かな「鍋つゆ」
大手と地場メーカーのCM戦略
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冬の家庭の味に欠かせない「鍋つゆ」。昨今では「個鍋」の登場で、多様化する食生活に即したラインアップが増えています。鍋つゆのメーカー各社は、エバラ食品「プチっと鍋」は瀬戸康史、Mizkan「こなべっち」は高橋一生、味の素「鍋キューブ」は田中圭などの旬なタレントをCMに起用し、マーケティング戦略にしのぎを削っています。今回は株式会社 KSP-SP(以下 KSP-SP 社)の協力のもと、地域別売上シェアとCMの関係も調査しました。ナショナルブランドだけでなく、エリア限定でCMを出稿している地場メーカーも多数存在し、エリア毎に群雄割拠の状態です。
新規メーカー参入、
エバラ躍進で出稿本数は3年で2倍に
表1 直近 3 年間のCM総出稿本数*1 推移
直近3年間のCM総出稿本数を見ると、2倍近くに急増していることが明らかになりました(表1)。鍋つゆ市場も年平均 0.7%の伸び率 *4 と、人口減少で苦戦の続く食品業界においては元気な存在です。このように、CM本数と市場規模が連動して伸びていることがわかりました。
- *1全国 27 エリア(視聴率調査の PM 地区・52 週地区・24 週地区)*2 の民放 各局の累計 CM 本数
- *2PM 地区 :関東・関西・名古屋
52 週地区:北部九州・札幌・仙台・広島・静岡・福島・新潟・岡山香川
24 週地区:熊本・鹿児島・長野・長崎・金沢・山形・岩手・鳥取島根・愛媛・富山・山口・秋田・青森・大分・沖縄・高知 - *3本ホワイトペーパーにおける直近3年間は下記の集計期間である
2017年度:2017年4月1日~2018年3月31日
2018年度:2018年4月1日~2019年3月31日
2019年度:2019年4月1日~2020年2月29日 - *4KSP-SP 社 KSP-POS(食品SM)調べ
- *5シェアオブボイス(share of voice)
表2 2019 年度CM総出稿本数の SOV*5
順位 | メーカー名 | 2017年度(参考) | 2018年度(参考) | 2019年度(参考) |
---|---|---|---|---|
1 | エバラ食品 | 29% | 44% | 50% |
2 | Mizkan | 34% | 28% | 23% |
3 | 味の素 | 21% | 13% | 11% |
4 | ヤマサ | なし | 6% | 6% |
5 | 久原醤油 | 5% | 1% | 4% |
6 | キッコーマン | なし | 4% | 3% |
7 | ダイショー | なし | 2% | 2% |
8 | まつや | 11% | 0.1% | 1% |
9 | ますやみそ | なし | 1% | 1% |
10 | 寿がきや食品 | なし | 0.4% | 0.3% |
5社 | 10社 | 10社 |
出稿本数の増加の一つの要因は、CMを出稿しているメーカーが2017年度には5社でしたが、2018 年度に10社と倍増していることです(表2)。
2018 年度から新規に参入したメーカーは、CMを全国 展開するキッコーマン、東日本をメインに展開するヤマサ、エリアを絞って展開するダイショー(中国四国・ 九州)、ますやみそ(中国四国)、寿がきや食品(中京)の5社です。また、出稿本数の増加を牽引したもう一つの要因はエバラ食品の躍進でした。2018年度に出稿本数を急増させSOVで1位となり、2019年度には2017年度の約3倍の本数を出稿するまでになりました(表2)。
エバラ、CM増で売上増
表3 直近3年間 10月~12月の鍋つゆ売上シェア
北海道
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
---|---|---|---|
Mizkan | 27.0% | 26.0% | 26.8% |
ダイショー | 18.3% | 16.8% | 17.1% |
エバラ食品 | 14.0% | 15.1% | 17.0% |
味の素 | 6.0% | 6.1% | 5.9% |
モランボン | 5.0% | 5.5% | 5.6% |
キッコーマン | 4.6% | 6.0% | 4.3% |
久原醤油 | 1.3%% | 2.0% | 3.9% |
ヤマサ | 1.4% | 2.7% | 2.3% |
関東地方
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
---|---|---|---|
Mizkan | 25.5% | 26.7% | 28.4% |
モランボン | 14.4% | 15.6% | 16.0% |
エバラ食品 | 9.0% | 10.1% | 11.0% |
味の素 | 7.9% | 8.1% | 7.9% |
ダイショー | 6.4% | 4.5% | 4.6% |
日本食研 | 3.6% | 3.1% | 2.7% |
紀文食品 | 2.9% | 2.9% | 2.7% |
イチビキ | 2.0% | 2.4% | 2.6% |
近畿地方
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
---|---|---|---|
Mizkan | 26.9% | 29.1% | 31.3% |
ダイショー | 11.6% | 10.3% | 9.9% |
エバラ食品 | 7.8% | 8.8% | 8.9% |
味の素 | 8.1% | 8.7% | 8.0% |
イチビキ | 5.4% | 5.3% | 5.0% |
モランボン | 5.0% | 5.3% | 4.3% |
久原醤油 | 3.0% | 3.3% | 3.7% |
まつや | 3.4% | 2.9% | 3.4% |
福岡
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
---|---|---|---|
久原醤油 | 24.4% | 22.1% | 26.3% |
Mizkan | 15.6% | 17.7% | 16.2% |
エバラ食品 | 9.9% | 11.2% | 12.5% |
ダイショー | 13.0% | 11.6% | 11.8% |
マルヱ醤油 | 3.8% | 4.7% | 5.0% |
味の素 | 4.1% | 4.9% | 4.8% |
明治 | 4.7% | 4.8% | 3.9% |
モランボン | 3.8% | 2.9% | 2.9% |
KSP-SP社 KSP-POS(食品SM)調べ
CMと売上の相関について、北海道・関東地方・近畿地方・福岡の4エリアで直近3年間の売上シェアを調査しました(表3)。
エバラ食品は、CM総出稿本数のSOVの大幅な増加に連動して2年連続ですべてのエリアで売上シェアを拡大させています。
久原醤油は2018年度CM総出稿本数のSOVが1/4に低下したことに連動して、福岡における売上シェアも低下しています。2019年度には大幅にCM総出稿本数を伸ばしてSOVを回復したことで、売上シェアも回復しています。
関東地方で売上シェア2位のモランボンや近畿地方5位のイチビキは各地で根強く支持されていますが、この3年間のCM出稿はありませんでした。さらなる飛躍を目指してCM出稿を始めるなどの新しい動きがあるか今後の動きに注目したいところです。
群雄割拠の福岡・広島エリア
表4 2019年度 CM出稿本数のエリア別ランキング
順位 | 放送地区 | 本数合計 | メーカー数 | エバラ食品 | Mizkan | 味の素 | 久原醤油 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 福岡 | 4,541 | 7 | 33% | 16% | 9% | 33% |
2 | 岡山香川 | 3.956 | 6 | 64% | 18% | 9% | |
3 | 関東 | 3.809 | 6 | 49% | 20% | 16% | |
: | : | : | : | : | : | : | |
7 | 広島 | 3,170 | 8 | 44% | 20% | 9% | 2% |
: | : | : | : | : | : | : | |
25 | 島根鳥取 | 2,142 | 5 | 61% | 25% | 10% | |
26 | 高知 | 2,007 | 4 | 60% | 26% | 10% | |
27 | 沖縄 | 1,575 | 4 | 57% | 28% | 12% |
2019年度のCM出稿本数のエリア別ランキング(表4)をみてみましょう。各エリアの放送局数の違いなどが影響するとはいえ、1位の福岡と最下位の沖縄で、3倍近い圧倒的な開きがありました。
さらに、CM出稿本数合計が1位の福岡、出稿メーカー数が1位の広島を詳しく調査しました。
福岡は、全国的にシェア1位であるエバラ食品に対し、僅差で迫っているメーカーが存在する唯一の県です。そのメーカーとは、久原醤油です。創業120年を越える地元の老舗メーカーで、あごだしをベースとした水炊きなどの鍋つゆを販売しています。前述のとおり、CMのSOVに連動して売上シェアの変動はあったものの、直近3年間の売上シェア(表3)で1位を維持しています。
なお、久原醤油は福岡の他に、九州地方と広島のエリアでのみCMを出稿しています。
CMを出稿しているメーカーの数を都道府県別にみると、広島が1位でした。広島は都市圏である・地場メーカーがある・福岡に近い、という特性が重なり、8社がひしめいている状態です。具体的には、CMを全国展開しているエバラ食品、Mizkan、味の素、キッコーマンに加え、都市部展開のヤマサ、エリアを絞って展開するダイショー、ますや、久原醤油です。
群雄割拠の福岡・広島エリア
表5 2019年度の放送時間帯別割合(関東)
朝:5:00 ~ 11:59 昼:12:00 ~ 17:59 夜:18:00 ~ 4:59
CM 出稿本数で2強のエバラ食品とMizkanの、CMが放送された時間帯別の割合を比較してみました(表5)。エバラは過半数を午前中に出稿する「朝型」であり、11 時頃に集中していました。一方、Mizkan は午後に力を入れる「昼型」でした。
さらに、注目すべきはゴールデンタイムの出稿本数です。最もCMコストの高い時間にエバラ食品はほとんど出稿していません。本数SOVではエバラ食品が独走しているように見えますが、コストベースでは本数の差ほどの開きがないことが推察されます。
エリアによってCM出稿本数のSOVに違いがあり、ナショナルクライアントのみで市場シェアを奪いあっているわけではないという調査結果となりました。エリア特性と売上シェア、そしてCMシェアも十分に理解することが、エリアマーケティングの糸口になるのではないでしょうか。
また、2020年4月には全国個人視聴率化が始まります。これにより全国共通指標で管理できるようになるだけでなく、よりターゲティングが精緻にできるようになることで、デジタル施策と統合した全国共通KPIでの管理や効果測定も可能となります。今後、鍋つゆジャンルの動きに加え、テレビCM全体を取り巻く環境変化にも注視して参りたいと思います。
本ホワイトペーパーでは、出稿量はテレビ CM の本数ベースで 集計・表記しております。
Madisonをご契約いただいたお客様は、GRPベース(述べ視聴率ベース)で確認することができるようになります。
Madisonは、2014年10月以降の全国のCMデータを蓄積しています。